エブリデイ・イズ・アート。
常識を疑うことで住まいを再構築
イリーマガジンの最新号が、タブレットやスマホを介して皆さまの手元に届く頃は、お正月のムードも落ち着きを見せ、いつもの慌ただしい日常が、当たり前のように戻っているかと存じます。ただし、この『いつもや当たり前』というものは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の以前と以後で、驚くほどに捉え方が違ったりもするでしょう。『常識というものは、世間一般に信じられているほどの根拠をもたない』という偉人の名言に触れたことがありますが、まさしく、『いつもや当たり前』というものは、意外にも不確実で不安定な概念なのではなかろうかと、イリーマガジンは思う次第です。さて、コロナ禍における常識の変容の総括は、新聞やテレビなどのメディアにお任せするとして、われわれが提案したいのは、『住まいと暮らし』の『いつもや当たり前』の再考。本日は、現代アーティストの鬼頭健吾さんをお迎えして、京都の芸術文化に広く貢献する氏に、『住まいと暮らし』の『素敵な飾り方』を問うてみます。
常識を疑うことで住まいを再構築
イリーマガジンの最新号が、タブレットやスマホを介して皆さまの手元に届く頃は、お正月のムードも落ち着きを見せ、いつもの慌ただしい日常が、当たり前のように戻っているかと存じます。ただし、この『いつもや当たり前』というものは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の以前と以後で、驚くほどに捉え方が違ったりもするでしょう。『常識というものは、世間一般に信じられているほどの根拠をもたない』という偉人の名言に触れたことがありますが、まさしく、『いつもや当たり前』というものは、意外にも不確実で不安定な概念なのではなかろうかと、イリーマガジンは思う次第です。さて、コロナ禍における常識の変容の総括は、新聞やテレビなどのメディアにお任せするとして、われわれが提案したいのは、『住まいと暮らし』の『いつもや当たり前』の再考。本日は、現代アーティストの鬼頭健吾さんをお迎えして、京都の芸術文化に広く貢献する氏に、『住まいと暮らし』の『素敵な飾り方』を問うてみます。
芸術家から
家づくりのヒントを拝借
坂口—冒頭から、『常識を疑う』というような仰々しいフレーズを大上段に掲げてしまったんですが、本日はまず、鬼頭さんの、ご自宅やアトリエに関するこだわりや工夫をお伺いし、わたしも、そして読者の皆さまも、きっとお話をする機会の多くない、芸術家という職業の方の、『住まいや暮らし』に対する思考と言いましょうか、恐れながらも、頭の中を探っていければと思います。どうぞよろしくお願いします
鬼頭—こちらも、日頃の美術関連の取材とは視点が異なるので新鮮に感じています。実は、家を建てるときに、自ら設計図を描こうとしたくらいに『住まいや暮らし』には関心がありますので、よろしくお願いします
安田—すごい! ご自身で描かれたんですか?
鬼頭—それが、やり始めてみたらまるで駄目でした(笑)
創作のスペースは
妻とセパレート
坂口—ご自身で、ゼロから設計に取り組まれることが、ある意味、『常識を疑う』という行動だと思うんですが、餅は餅屋ということがわかっていただけましたか(笑)
鬼頭—はい。早い段階でそれに気付きまして、プロフェッショナルにお願いをしました
安田—鬼頭さんが全面プロデュースされた家も是非、見てみたいですが、新居の完成は最近ですか?
鬼頭—一昨年の12月に完成しております
坂口—群馬県を本拠地に活動されていると伺っていますが、ご自宅に専用の作業場を併設されているんですかね?
鬼頭—妻も現代美術家なんですが、妻のアトリエはありますね。わたしのアトリエは家にはないですね(笑)
安田—えっ(笑) では、創作活動はどちらで?
鬼頭—わたしは、自宅からほど近い山手にアトリエを構えています
取材班がお邪魔したこちらは、現代美術家であり京都芸術大学大学院教授でもある鬼頭健吾さんがディレクションするコマーシャルギャラリー、『MtK Contemporary Art』。運営するのは、イリーマガジンの03号で『家と車の未来』を存分に語っていただいた、株式会社マツシマホールディングスさんということで、イリーのネットワークはここでもアンテナ3本でバリバリに繋がりました。
リラックスした雰囲気でインタビューに応じてくださった鬼頭さんは、1977年、愛知県生まれ。2001年に名古屋芸術大学絵画科洋画コースを卒業後、2003年に京都市立芸術大学大学院美術研究科油画専攻を修了。1999年より、『アートスペースdot』の設立、運営に参加するなど、在学中より作家活動をスタートさせ、インスタレーションを始め、絵画や立体など多種多様な表現方法を用いた作品を国内外で発表。主な展覧会は、「六本木クロッシング2007:未来への脈動」(森美術館)、「MOT×Bloomberg PUBLIC 'SPACE' PROJECT」(東京都現代美術館)、「世界制作の方法」(国立国際美術館)など。主な個展は、「Migration “回遊”」(群馬県立近代美術館)、「鬼頭健吾 Multiple Star」(ハラ ミュージアム アーク)、「YCC Temporary 鬼頭健吾」(YCC ヨコハマ創造都市センター)、「六本木アートナイト 2018」(国立新美術館)、「高松市美術館コレクション+ギホウのヒミツ」(高松市美術館)など。後進の育成に努める大学のほど近くにも居を構え、京都のアートシーンを多方面から牽引されています。
水もしたたる?
素晴らしきアトリエ
坂口—ちなみに、群馬の山手のアトリエはどのようなつくりなんですか?
鬼頭—ゴルフ場の横にあるんですが、元々は、画家がお住まいになられていた一戸建ての物件です。天井までが7mくらいあり、天窓からは光りが取り込めます
坂口—もとより、アトリエには最適な物件というか、そのまま、もうアトリエなんですね(笑)
鬼頭—ええ。2階建てのようでいてロフトしかついていないみたいな
安田—でしたら、改装やリフォームの必要もないんですね
鬼頭—それが、最近、雨漏りが気になり始めまして……
坂口—あらら、7mの高さからの雨漏りは深刻ですね。作品に被害が及ばないよう早めの修繕をおすすめします
鬼頭—無論、その辺りはしっかりケアをしていますよ
呼吸をする白いカベが
調湿効果を生む
安田—一人になれるという意味で、ご自宅と別の場所にアトリエがあってよかったですか?
鬼頭—どうなんでしょうか。家にあったらそれはそれで便利だとは思いますが、12歳の息子がおりますので、夜は早めに帰るようにしていますね
坂口—そうなんですね。パパと遊びたい盛りですもんね
鬼頭—それこそ、若い頃は、昼夜を問わずに制作に没頭していましたが、現在は、午後から夕方の時間帯がメインになりましたね
坂口—お子さまがパパの帰りを待つご自宅はどのようなつくりなんですか?
鬼頭—妻の両親と同居をしていまして、手前が平家、奥が二階建てのL字型の二世帯住宅となっています。残念ながら、設計図の自作は断念をしましたが、妻の希望もあり壁をすべて漆喰にしたのがポイントですね
ジャーナリスト美沙子は
読者目線
坂口—漆喰は消石灰を主原料とした天然由来の建築材料で、吸湿性、放湿性をもちながら、建築基準法で不燃材料と認められるほど、耐火性にも優れています。材料費や施工費は嵩んでしまいますが、その風合いや質感に惚れ込むお客さまも多いですね
安田—ヨーロッパの街中やリゾート地で見かける白い壁も漆喰ですよね
坂口—その通りです。和漆喰、西洋漆喰ともにびっくりするくらいに耐用年数が長いので、総合的に考えるとかなりコストパフォーマンスに優れた壁材と言えましょう
安田—メリット、デメリットを丁寧に解説いただきありがとうございます!
坂口—いえいえ。ちなみに漆喰は、外壁、内壁だけでなく天井にも用いることができますし、断熱性や保温性も備わっているんですよ
安田—壁というキーワードが出たのでお伺いをしたいんですが、美術作品は家の中にいかにして飾ったらよいのでしょうか? ざっくりとした質問ですみません(笑)
鬼頭—わたしは、家の中のどこにどう飾るかは皆さまの自由だと思っています。海外の家は、豊かさに関係なくなにかしらの絵画を飾っているイメージがありまして、それが作家のものでなく、学生の作品や市販されているポスターや写真であってもよいかなと
坂口—プロフィールを拝見しましたが、鬼頭さんは、アメリカやドイツでも芸術家として活動をされていますよね?
鬼頭—はい。五島記念文化財団の助成を受けてニューヨークに、文化庁新進芸術家海外研修員としてベルリンに暮らしておりました
安田—そのふたつの都市は世界有数のクリエイティブの発信地というイメージがあります。それに引き換え、わたしの問いかけはなんともありきたりで……
坂口—美沙子さんのその大衆目線こそが、『住まいと暮らし』の『素敵な飾り方』の核心に迫るんですよ
飾らずに飾るは
トンチじゃない!
鬼頭—モノを大切に扱う文化が背景にあるのかもしれませんが、日本では、壁を傷付けたり、壁に穴を開けたりすることは嫌われますよね
安田—賃貸物件の多い東京に暮らしていると、なおさらそういう感覚がありますね。原状回復という言葉もちらつきますし
鬼頭—アメリカやヨーロッパの人たちって、壁はセルフリメイクできるという考え方をもっているので、躊躇なくガンガンに打ち付けちゃったりするんです
坂口—確かに、われわれは、壁を必要以上に丁寧に扱う傾向にありますね。ビニールクロスや紙クロスと呼ばれる壁紙の張り替えはそれほど材料費や施工費もかかりませんし、器用な方はDIYに挑戦されてもよいと思います。住宅設計・デザイン・施工会社のトラストデザインとしましては、綺麗な壁を維持しなくちゃいけないという『常識』そのものを疑うべきなのかもしれません
安田—神経質になってまで、綺麗に維持しなきゃというのは、ちょっと疲れちゃいますもんね。実際、子どもたちにとっては、引っ掻いて剥がしたり、ペタペタとシールを貼ったり、親の目を盗んでお絵描きをしたり、そこが自己表現の場だったりもします。賃貸マンションだからと気にせずに、おおらかに壁紙と関われたらいいんですけど
坂口—飾らない気持ちで付き合える壁紙が理想的で、欧米に倣えというわけではありませんが、張り替えや塗り替えが『いつもや当たり前』のものとなってくれれば、もっともっとカジュアルに絵画やポスター、はたまた、純真無垢なお子さまのグラフィティを展示できるスペースに変貌しますね
鬼頭—お話しをされているように、『住まいや暮らし』の中に『いつもや当たり前』のものとしてアートが溶け込んでくれたら嬉しいですね
建築コンシェルジュの
バエる技
安田—坂口さんは、理想の『住まいや暮らし』を提供する側として、家へのアートの取り入れ方はどのようにお考えですか?
坂口—現実的な話となりますが、家を建てられる方はキッチンをどうするか? リビングをどうするか? バスをどうするか? まずは、日常に深く関わる実践的なスペースのあれこれに試行錯誤をされます。ですので、打ち合わせがある程度進んだ段階で、『お家の気に入りの場所の写真を撮るなら、どんなアングルで、どんな画角ですか?』という風に、あえて、ぼんやりと遠回しに問いかけます
安田—お客さまの気持ちに配慮した、優しい言葉ですね
坂口—そこから絵画を飾りたい、花を飾りたい、タイルを一面に貼りたい、照明でムードを出したいなどの具体的な要望をヒアリングします。こういったプラスαの部分までこだわっていただけるよう、トラストデザインは建築コンシェルジュとして寄り添っていますよ
安田—わたしは先日、引っ越しをしたんですが、どうしても側面から光を取り込みにくいつくりなので、鬼頭さんのお話を聞き、『素敵な飾り方』で壁を彩ってみたいなと感じました
鬼頭—古の頃から、アートの中でもとりわけ風景画は、窓の替わりとも言われてきたんですよ。四角形の枠の中には室内とは違う世界が広がっているでしょ
安田—ほんとだ! めっちゃ勉強になります。あと、本日、絶対に聞いておきたいことがあるんです。子供がアート系の学校に通っているんですが、親としてなにか協力してあげられることってありますか?
鬼頭—そうなんですね。わたしの息子も絵が大好きなんですが、紙ではなくキャンバスに描かせています。それと、子どもの感受性や吸収力ってとてつもないですから、美術館やギャラリーに行ってたくさんの絵を見せてあげてください
安田—アドバイスをありがとうございます。全力でサポートしたいと思います
頑張るママは
キッチンの表現者
坂口—美沙子さんはレシピ本を出版されるくらいに、お料理が大得意ですが、仕事の忙しさにかまけて外食がメインのわたしからすれば、それも生活の中の偉大なアートだと思いますよ。インスタグラムも拝見していますが、器選びのセンスも抜群ですもん
安田—そんなそんな(笑) ママの日常の仕事を褒めていただけるなんて嬉しいです!
鬼頭—料理をイメージしながら器を選ばれるのは、立派なビジュアル制作だと思いますよ
安田—もう、料理の最中は頭をフル回転させちゃっています。味付けや盛り付けには無限のパターンがあると思いますので。だから、作っただけでヘトヘトになるわけだ(笑)
坂口—さてさて、ふたりの高名なアーティストをお迎えして対談を繰り広げた今回は(笑) トラストデザインが用意した建築パースに、国内外から高い評価を受ける鬼頭さんのアート作品を展示したら? という図々しいコラボレーションで締めくくりたいと思います。『素敵な飾り方』で『いつもや当たり前』のライフスタイルが格上げされると願いつつ、『MtK Contemporary Art』にて行った取材はこの辺りで終了させていただきます。鬼頭さん、ありがとうございました
鬼頭—こちらこそ、ありがとうございました。少しでもアートを身近に感じていただけるような記事になれば幸いです
安田—お洒落なギャラリーにお招きいただき、ありがとうございました。子どものために、急いでキャンバスを探そうっと(笑)
YLIY style from vol.08
トラストデザインが3Dで描く
アートを愛でる家
『京都に家を建てたい』人たちと、その夢を叶えるトラストグループとのご相談やお打ち合わせは、上にまとめたインタビューと同じように、会話を重視して進められます。お客様の希望や要望をゆっくりとじっくりと伺いつつ、要所要所で的確なアドバイスとご提案。何気ない雑談の中にも、我々、トラストグループは『家づくり』のヒントを探します。早速ですが、新年一発目にお披露目するのは、建物の3次元データを実寸大で表示することのできる建築シミュレーションアプリ、『タメシダテ』(その詳細はイリーマガジン07号にて)を用いた『アートな家』。今回は、コラボレーション企画として特別に、国内外から高い評価を受ける現代アーティスト、鬼頭健吾さんの珠玉の作品を、ホワイトを基調とした空間にデコレーションさせていただきました。恐れ多くも、そのコンセプトはインタビューからダイレクトに引用した『飾らずに飾る』。是非とも『タメシダテ』をクリックして、『いつもや当たり前』のようにナチュラルにアートの溶け込んだスペースを、『家を建てたい主人公』の視点で闊歩してみてください。
ママさんアーティスト扱いに恐縮する安田ですが、自身で『FOUR O FIVE』なるライフスタイルグッズ販売サイトを運営し、京都並びに全国各地の伝統工芸品を、安田ならではのセンスとアイデアでコンテンポラリーにブラッシュアップするなど、芸能活動の傍ら、クリエイティブな仕事にも熱心。これらの商品を京都の町屋を改装したギャラリーにズラッと並べるのが夢だとか。
安田美沙子
1982年4月21日生まれ。数々の女優やアイドルを輩出する、講談社主催のミスマガジンにてミスヤングマガジンを受賞後、芸能界で華々しく活躍。京都府出身のタレントとしても著名で、そのはんなりした語り口に魅せられるファンも多い。郷土愛も強く、幼馴染の経営する中京区の炭焼店でサプライズ店員をしていたところを目撃されたことも。
坂口祐司
1986年6月25日生まれ。土地や建築だけでなくお客様のライフスタイルやライフプランまでをトータルに考え、最良のサービスを提供するトラストグループの代表取締役。急成長を遂げる若き会社のトップは、本メディアでは京都で培った幅広い人脈を武器にゲストのブッキングに日夜奔走。四条河原町に住まいと暮らしのギャラリーをオープン。
今回の舞台
今回の舞台
MtK Contemporary Art
京都国立近代美術館や京都市京セラ美術館などが立ち並ぶ、京都の屈指のアートスポット岡崎に昨年3月にオープンした『エムティーケー コンテンポラリー アート』のディレクターが鬼頭健吾さん。『この隙に自然が』のタイトルを掲げて2月23日まで、車のショールームをコンバージョンしたスペースに展示されるのは、伊藤存、かなもりゆうこ、長島有里枝による魅惑の作品群。
TEL.075-754-8677
〒606-8334
京都市左京区岡崎南御所町20-1
- 衣装協力
- ririchuchu(アクセサリー)
Hai capito(衣装)